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コロナ関連肺炎患者における覚醒下腹臥位療法のエビデンスとは?

2021/09/30

運動療法 呼吸 論文紹介

t f B! P L

皆さんこんにちはフィジオライオンです。
現在、急性期病院で理学療法士として働いて9年目となります。

コロナ関連肺炎患者のリハビリテーションを担当する機会があったので情報共有をさせてください。

当ページのKey Questionは、

  1. コロナ関連肺炎患者における覚醒下腹臥位療法のエビデンスとは?

腹臥位療法とは?

コロナ関連肺炎患者の治療の柱として腹臥位療法があります。
腹臥位療法は簡単に言えば、うつ伏せの姿勢をとる治療法です。

日本救急医学会のサイトでの説明では、
急性呼吸不全に対する治療法の一つで,腹臥位で人工呼吸療法をおこなうことをいう。本法が有効な病態は,肺水腫・肺炎・ARDSなどで障害部位が背側肺に限局して分布するいわゆる背側肺障害を有する場合である。(中略)腹臥位呼吸療法の効果機序は,背側障害肺に多く分布した血流が健常肺へ再分配され換気血流比が改善すること,closing volumeの減少,横隔膜運動の変化,心臓により圧排される左肺下葉換気の改善,体位ドレナージによる気道分泌物の排出の改善などである。  
引用: 日本救急医学会;https://www.jaam.jp/dictionary/dictionary/word/0310.html,2021年9月30参照

とあり、元々は急性呼吸不全で呼吸器を装着している患者に対する治療として用いられています。そして、その有効性も確認されています。

コロナ関連肺炎でも増悪して急性呼吸不全を呈する患者がおり、腹臥位療法が適用されています。

実際、フィジオラインが勤めている病院では、呼吸器管理なしの覚醒下でも腹臥位療法が積極的に行われています。 

 ただ、ここで疑問に思ったのが覚醒下腹臥位療法のエビデンスです。

患者に指導を行いますが、どういったエビデンスがあるのかあまり理解していなかったので以下に述べたいと思います。

覚醒下腹臥位療法のエビデンス

ここ数年、コロナ関連肺炎の論文は急速に増えています。
その中で、覚醒下腹臥位療法についても研究が行われています。

覚醒下腹臥位療法とは侵襲的呼吸器を装着しておらず、意識がはっきりしている患者に対して用いられる腹臥位のポジションと保持する治療法です。

まず、コロナ関連肺炎で呼吸器管理下にある患者に対するガイドラインの記載では、
For mechanically ventilated adults with COVID-19 and moderate to severe ARDS, we suggest prone ventilation for 12 to 16 hours, over no prone ventilation (weak recommendation, low-quality evidence).
引用:Alhazzani W, Møller MH, et al: Surviving Sepsis Campaign: guidelines on the management of critically ill adults with Coronavirus Disease 2019 (COVID-19). Intensive Care Med. 2020 May;46(5):854-887. 

とあり、 COVID-19と中等度から重度のARDSを有する人工呼吸器管理された成人に対しては、腹臥位換気を行わないよりも、12~16時間の腹臥位換気を行うことを推奨するとしています。

ただし、推奨度は強くなく、エビデンスの質も低い位置づけです。

それでも臨床現場では有効性を実感しているということで

エビデンスが不足していてもガイドラインに記載があるのだと思います。


では、覚醒下腹臥位療法のエビデンスとして3つの論文を紹介したいと思います。


1つ目3時間以上の腹臥位療法の即時的な効果を検証した前向きコホート研究(Lancet Respir Med. 2020 Aug;8(8):765-774.)で

論文の結論は、

 ー覚醒下腹臥位は迅速(10分)に血中酸素濃度を改善するために実行可能かつ有効であった。

ーこの効果は半数の患者で仰臥位に戻った後も維持されたが、開始時と比較して有意差はなかった。

ーまた、呼吸困難も有意ではないが減少した。

というものであり、即時的に腹臥位療法は酸素化改善につながるものの、仰臥位に戻ると酸素化改善はBaselineと有意差がないとの結論でした。


2つ目呼吸補助に高流量鼻腔内酸素または非侵襲的人工呼吸を使用し,1日16時間の腹臥位療法を目標にしたプロトコルでの無作為化対照試験(Crit Care. 2021 Jun 14;25(1):209.)で

論文の結論は、

ー登録後30日以内に挿管された患者は、対照群では13人(33%)、腹臥位群では12人(33%)であった(HR 1.01(95%CI 0.46-2.21)、P = 0.99)。

ー腹臥位時間の中央値は、対照群では3.4時間[IQR 1.8-8.4]であったのに対し、腹臥位群では1日あたり9.0時間[IQR 4.4-10.6]であった(P = 0.014)。

というものであり、登録後30日後の挿管率に群間差はなかったと結論付けています。

なお、プロトコル上、腹臥位群の方が有意に腹臥位療法時間は長かったが、対照群でも腹臥位療法は行われており、挿管率に差がでなかった可能性もあると述べられています。


最後に3つ目高流量鼻腔内酸素を使用した患者を対象とした大規模無作為化試験(Lancet Respir. 2021 Aug 20;S2213-2600(21)00356-8.)で、

論文の結論は、

ー覚醒下腹臥位は、治療失敗(挿管or死亡)の発生率(相対リスク0.86[95%CI 0.75-0.98])を有害事象なしに減少させた。

ー分割した結果では、挿管のハザード比は0.75(0.62-0.91)、死亡率のハザード比は0.87(0.68-1.11)であった。

ー入院期間は覚醒下腹臥位によって影響を受けなかった[16·4 (10·5) vs 16·5 (9·7), Mean difference –0·2(–1·3 to 1·0)]。

というものであり、登録後28日以内の治療失敗の発生率は減少したものの、死亡率単体に有意差はなかったというものであった。

まとめ

フィジオライオン的まとめは、
  1. 腹臥位療法は即時的に酸素化を改善させるが、仰臥位に戻るとその改善が維持される患者とそうでない患者が存在する。
  2. 腹臥位療法は挿管率を低下さえる可能性があるが、死亡率を低下さえるわけではない。

まだまだ、エビデンスが不十分なことは否めません。
対象や研究のプロトコルも統一されていない状況なので、
紹介した論文の結論を鵜呑みにするのは危険であると感じました。

論文を調べていて、
上記で紹介した患者よりも重症度が軽い患者への腹臥位療法の有効性や
腹臥位療法に反応するレスポンダーの条件等が気になりました。


このテーマに興味を持っていただいた方は、
当ページの内容を鵜呑みにせずに1次情報にあたってください。
あくまでもフィジオライオンのフィルターを通しての解釈となっています。
コメント欄で皆さんの”考え”を共有していただけたら幸いです。


昨日の自分よりも1%成長がモットーのフィジオライオンがお送りしました。
今後ともよろしくお願いいたします。

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急性期病院で理学療法士として働います。昨日の自分よりも1%成長がモットーに臨床と研究に奮闘しています。当ブログは、各患者の最大機能を発揮させる運動療法を追求し、臨床経験や臨床研究を通して誰もが再現性ある手段を獲得できるための情報発信を目的としています。

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