皆さんこんにちはフィジオライオンです。
現在、急性期病院で理学療法士として働いて9年目となります。
今回は亜急性期(発症後2か月)時点での脳卒中患者における快適歩行速度は、
どの程度改善すれば臨床的に意味あるのか?
について述べていきたいと思います。
皆さんはMCIDとは聞いたことがありますか?
MCIDとは、『Minimal Clinically Important Difference』の略であり、
『臨床的に重要な変化の最小量』という訳です。
つまり、自身が行った治療が、患者にとって意味ある変化をもたらしたかを判定するための基準となる値です。
今回は快適歩行速度のMCIDに関して述べますが、
自身の治療に対して自己満足で終わるのではなく、
客観的に得られた歩行速度の改善が患者にとって意味ある変化であったかを
確認したい方は一読する価値があると思いますので、お付き合いください。
当ページのKey Questionは、
- MCIDを臨床で活用する際の注意点とは?
MCIDとは?
自分の行っている治療効果判定の1つの指標となる数値となります。
快適歩行速度を繰り返し測定した場合、各測定ごとにばらつきが生じると思います。
MDC値は、そのばらつきが、改善による変化なのか、それともただの測定によるばらつきなのかを判定するための参考値となります(詳細は割愛)。
亜急性期脳卒中患者における快適歩行速度のMCID推定値
We estimate that the MCID for gait speed among patients with subacute stroke and severe gait speed impairments is 0.16 m/s.引用: Meaningful gait speed improvement during the first 60 days poststroke: minimal clinically important difference. Tilson JK, Sullivan KJ, Cen SY, Rose DK, Koradia CH, Azen SP, Duncan PW; Locomotor Experience Applied Post Stroke (LEAPS) Investigative Team. Phys Ther. 2010 Feb;90(2):196-208.
論文の結論は、
亜急性脳梗塞で重度の歩行速度障害を持つ患者の歩行速度のMCIDは0.16m/sであると推定したとあります。
「快適歩行速度のMCIDは0.16m/sですね!」
と満足してしまった方は、
是非我慢してブログを読み続けてください(笑)。
MCIDの数値は非常に気になりますが、
臨床で活用するためにはいくつかの注意点があります。
以下、4つの注意点を説明します。
研究の対象者の特徴は?
MCIDはどういう対象から得られたデータを用いているかがかなり重要となってきます。
今回は亜急性期脳卒中を対象としていますので、慢性期脳卒中では使用できません。
対象が異なれば当然MCIDも違ってくるからです。
今回紹介した論文では、
取り込み基準が
(1)年齢18歳以上、
(2)45日以内の脳卒中、
(3)下肢に残存する麻痺、
(4)1人の最大介助で3m以上の歩行が可能、
(5)3ステップの命令に従うことができる、
(6)快適歩行速度が0.80m/s未満(10m歩行12.5秒より遅い)、
(7)自宅への退院が見込まれる、
(8)週に3回、介入施設に通うことができる
となっています。
ここから読み取れる研究の対象者の特徴は、
発症から45日以内の脳卒中患者(亜急性期)であり、下肢に残存する麻痺があり、歩行機能障害を呈していることです。
特に重要なのは、快適歩行速度が0.80m/s未満(10m歩行12.5秒より遅い)を対象としているということです。
つまり、歩行機能が良い患者は対象から外れていることになります。
さらに、歩行機能の最低レベルが、1人の最大介助で3m以上の歩行可能となっています。
これは、まったく歩けない患者は対象から外れていることを意味しています。
【補足】
ここで基準となっている『0.80m/s』は1995年に、Perryらは、歩行速度違いによって歩行障害を区別できることを実証した研究の数値が参考になっていると思われます。
この専門家の意見に基づく脳卒中生存者における快適歩行速度での機能的歩行分類は広く使用されています。
ちなみに、0.80m/sは屋外歩行が問題レベル(unlimited community)とされています。
このように亜急性期脳卒中患者と言えど、MCIDを活用できる患者は限定されます。
アンカーは何?
MCIDを推定する方法として大きく『アンカー法』と『分布法』があります。
今回紹介した論文ではアンカー法を採用しています。
アンカーとは、臨床的に意味ある変化を判断するために測定される指標のことで、
紹介した論文ではmRS(Modified Rankin Scale)を用いています。
mRSは脳卒中患者の包括的な障害を判定する指標であり、一般的に用いられています。
つまり、アンカーとして用いられる指標は、ゴールデンスタンダードとして用いられている必要があります。
※研究によっては患者自身がどの程度良くなったと感じたかをアンカーにしていることもあります。
紹介した論文を例に挙げると、
mRSが1改善するために、快適歩行速度は0.16m/s改善する必要があるということになります。
自分が使用するMCIDが何を基準に推定しているかはチェックが必要です。
どのタイミングでアウトカムを測定しているか?
どのタイミングでの測定結果を採用したかは、自分でMCIDを活用する場合に確認しておく必要があります。
今回紹介した論文では、脳卒中後約20日目と約60日目に快適歩行速度とmRSを測定しています。
したがって、MCID0.16m/sの数値はこの期間の変化となっています。
ここで注意点があります。
参加者の初期評価は脳卒中後5日目から30日目の間に行われたが、プロトコルには脳卒中後45日目までの初回評価の許容範囲が含まれていたと記載がありました。
つまり、初期評価は発症5~45日目とかなり幅広い期間が設定されていたことが分かります。
研究の結果では、初期評価が21.9±10.7日となっていたので、おおよそですが対象者の68%が10日~30日に初期評価を受けたことになります。
初期評価の時期はばらつきがありますが、臨床活用として、
歩行可能となってから初期評価(発症45日以内)を行い、発症2か月時点での歩行介入の有効性の効果判定として利用できるかもしれせん。
このように測定されたタイミングの詳細がわかると活用の仕方も変わってきます。
アウトカムの測定条件は?
臨床で活用するためには、研究と同じ条件で快適歩行速度を測定する必要があります。
具体的に、歩行測定の距離、歩行補助具の種類、介助量などです。
以下、紹介した論文でのチェックポイントです。
・歩行速度0.8m/sより遅い患者が対象
・1人での最大介助まで受けた(麻痺側の振り出しの介助はなし)
・普段使っている歩行補助具および装具を使用
・疲労のために10mの歩行ができなかった者は、歩行速度0.0m/sを採用
とういようにチェックポイントはたくさんあります。
目の前の患者さんに使用する前に上記のチェック項目を参考にしてみてください。
まとめ
- ①研究対象者の特徴は?
- ②アンカーは何?
- ③どのタイミングでアウトカムを測定しているか?
- ④アウトカムの測定条件は?