現在、急性期病院で理学療法士として働いて9年目となります。
前回、脳卒中患者の治療においてStroke Care Unitの有効性について説明しました。
脳卒中急性期おいて包括的なケアが重要であることが再確認できました。
詳細が気になる方を以下をご参照ください。
Stroke Care Unitの一つの重要な要素として
早期離床(今回は、Early mobilizationと同義)がありますが、
今回は『Stroke Care Unit』と『早期離床』を
切り離して考えた際に気が付いた点がありましたので、
それについて述べたいと思います。
当ページのKey Questionは、
- 急性期脳卒中患者の超早期離床は、単独で良好な回復につながるのか?
早期離床一辺倒に疑問を持っている方がいた場合、
一読する価値があるかもしれません。
お付き合い頂けたら幸いです。
ガイドラインにおける早期離床の位置づけとは
脳卒中急性期において早期リハビリテーションは重要なキーワードであり、
早期リハビリテーションにおいて
離床を図ることが理学療法士の大きな役割となります。
急性期リハビリテーションの進め方に関して
脳卒中治療ガイドライン 2021では、
十分なリスク管理のもとに、早期座位・立位、装具を用いた早期歩行訓練、摂食・嚥下訓練、セルフケア訓練などを含んだ積極的なリハビリテーションを、発症後できるだけ早期から行うことが勧められる (推奨度A エビデンスレベル高)引用:日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会 (編) (2021).脳卒中治療ガイドライン 2021. 株式会社協和企画.
とあり、早期離床は推奨度Aでエビデンスレベルも高いです。
そのため早期リハビリテーション(早期離床)を実施しない選択肢は
今のところなさそうです。
早期離床は万能薬!?早く起こせば起こすほど良い?
早期離床に関しては、
一昔前の状態が安定するまでは寝かせておく治療と比較して、
格段に回復を促進することは臨床経験的に火を見るよりも明らかです。
しかしながら、
近年は早期離床ブームで『早く起こせば起こすほど良い』という風潮もあり、
そのことに躍起になっていることにフィジオライオンは違和感を感じています。
そして、以下の疑問を抱きました。
「本当に早く起きれば起きるほど、長期的に良好な回復につながるのか?」
前回、Stroke Care Unitの包括的な治療が良好な回復につながることを説明しました。
では、早期離床単体での効果はどうでしょうか。
近年では早期離床が通常治療となっているため、
発症から離床まで時間はかなり短縮されています。
そのため、残念ながら
Stroke Care Unitの効果から早期離床を分離しての単独効果
を明らかにすることは難しくなっています。
そこで出てきたのが、
Very early mobilisation、つまり超早期離床です。
具体例として
AVERT studyは早期離床研究として非常に有名であり、
発症24時間以内の介入を目標としています。
もちろん早期離床の臨床的意義は理解できます。
フィジオライオンもまずは離床させることを考えます。
ただ、
「できるだけ早く起こすことが重要である」という文言が独り歩きしており、
脳卒中リハビリテーションの本質から少しずれているように感じるのは
フィジオライオンだけでしょうか?
本当に超早期離床は長期的な良好な回復につながるの?
前置きが長くなりましたが、
超早期離床単独の効果についての話に移ります。
今回紹介する論文は、
2018年のCochrane Database of Systematic Reviewsからで、
超早期離床群(very early mobilisation;可能な限り早く開始、少なくとも発症後48時間以内)と
遅延離床群(delayed mobilisation;通常ケア)
についてメタ解析したものになります。
なお、脳卒中発症から離床開始までの時間の中央値(範囲)は、
超早期離床群で18.5(13.1~43)時間、遅延離床群で33.3(22.5~71.5)時間でした。
※遅延離床群も十分早いですね。
AVERTおよび小規模RCTを含めた9つの試験をメタ解析すると
・VEM probably led to similar or slightly more deaths and participants who had a poor outcome, compared with delayed mobilisation (51% versus 49%; odds ratio (OR) 1.08, 95% confidence interval (CI) 0.92 to 1.26; P = 0.36; 8 trials; moderate-quality evidence). Death occurred in 7% of participants who received delayed mobilisation, and 8.5% of participants who received VEM (OR 1.27, 95% CI 0.95 to 1.70; P = 0.11; 8 trials, 2570 participants; moderate-quality evidence), and the effects on experiencing any complication were unclear (OR 0.88; 95% CI 0.73 to 1.06; P = 0.18; 7 trials, 2778 participants; low-quality evidence).・The mean ADL score (measured at end of follow-up, with the 20-point Barthel Index) was higher in those who received VEM compared with the usual care group (mean diHerence (MD) 1.94, 95% CI 0.75 to 3.13, P = 0.001; 8 trials, 9 comparisons, 2630/2904 participants (90.6%); lowquality evidence), but there was substantial heterogeneity (93%).引用:Very early versus delayed mobilisation after stroke. Langhorne P, Collier JM, Bate PJ, Thuy MN, Bernhardt J. Cochrane Database Syst Rev (IF: 9.27; Q1). 2018 Oct 16;10(10):CD006187.
論文の結果は、
・超早期離床群は、遅延離床群と比較して、死亡および予後不良の対象者が同程度かわずかに多かったが有意差なし。
・あらゆる合併症の発生に対する影響は不明であった。
・平均ADLスコア(追跡終了時に20点満点のBarthel Indexで測定)は、遅延離床群と比較して超早期離床群で高かった(エビデンスレベル低)が、かなりの異質性があった(93%)。
とあり、
正直、超早期離床において大きなメリットがあるとは言えない結果でした。
まとめ
フィジオライオン的まとめは、
- 超早期離床は遅延離床と比較して良好な回復に導く大きなメリットがあるとは言えない
発症から離床までの短縮に関して、
近年でだいぶ達成できたと思います。
今回紹介した遅延離床群ですら
発症から初回離床までの時間が中央値で33.3時間となっています。
そのため、良好な回復促進のために『ただ早く起こす』のみでは限界にきているのではないでしょうか?
脳卒中患者の最良な回復を図るためには、
早期離床の恩恵を受ける対象者の選別や
早期離床プログラムの最適化(介入の種類・強度・頻度・時間)など
質的な部分が重要になってくるのではないかと考えます。
理学療法士として、
その患者の最良な回復を促す早期リハビリテーションを提供できるように
努力していきましょう。
このテーマに興味を持っていただいた方は、
当ページの内容を鵜呑みにせずに1次情報にあたってください。
あくまでもフィジオライオンのフィルターを通しての解釈となっています。
コメント欄で皆さんの”考え”を共有していただけたら幸いです。
昨日の自分よりも1%成長がモットーのフィジオライオンがお送りしました。
今後ともよろしくお願いいたします。