現在、急性期病院で理学療法士として働いて9年目となります。
脳卒中患者に対して筋力増強練習はしますか?
ひと昔前は、麻痺のある人に筋力増強練習はやっても意味がない、あるいは逆効果であるという意見もありましたが、現在は見直されてきていると思います。
当ページのKey Questionは、
- 慢性期脳卒中片麻痺患者において下肢筋力を増強すれば歩行速度は改善するのか?
- 下肢筋力増強練習が歩行速度改善につなげるために見るべきポイントは?
ただ、漠然と筋力増強練習を実施している方がいれば、一読する価値があると思いますのでご付き合いください。
筋力増強練習はADLにつながるのか?
フィジオライオンは、急性期病院に勤めていますが、よく筋力増強練習を行います。
ただ、その運動療法がADL改善につながっているかどうかは疑問を持っています。
運動プログラムを立てる前提には目標があり、多くの場合ADL改善にあると思います。
そのため、
筋力増強練習が最終的にADL改善につながらないと、
ただの自己満足になってしまう可能性があるということです。
2020年に出た筋力増強練習に対するメタ分析では、
レジスタンストレーニングは、下肢の筋力および運動機能において他の治療法より優れているが、歩行能力、移動性・バランス・姿勢制御、痙性・筋緊張亢進においては他の治療法と有意な差はない引用:Resistance training in stroke rehabilitation: systematic review and meta-analysis. Veldema J, et al. Clin Rehabil. 2020.
とあり、下肢筋力や運動機能改善にはつながるが、歩行などのADL改善に関しては他の治療法と差がないというものでした。
※脳卒中患者における筋力増強練習の有効性に関しては以前の投稿をご覧ください。
上記の点を踏まえると、
脳卒中患者において筋力増強練習を実施することで歩行機能改善する者としない者の差を検討し、
どういった特性の脳卒中患者に筋力増強練習を選択すればよいか把握しておく必要があると考えられます。
慢性期脳卒中患者において筋力増強練習が歩行速度改善につながるのか?また、改善するための条件は?
今回紹介した論文は、
慢性期脳卒中生存者において、歩行機能改善につながる筋力増強練習(POWER training)を行い、その効果を検証したものになります。
歩行速度改善MCID0.16m/sを達成した者をResponder、達成しなかった者をNon-responderとしてその特性を比較しています。
なお、研究対象は麻痺が残存しており、歩行は介助なしで100フィート可能で、快適歩行速度が1.0m/s未満となっています。
※亜急性期脳卒中患者における歩行速度のMCIDの詳細に関しては以前の投稿をご覧ください。
Specific to those who reached MCID in SSWS (e.g. “responders”), significant improvements in SSWS, FCWS, 6-MWT, paretic knee power, and non-paretic knee power was realized. Paretic knee power and non-paretic knee power significantly improved in those who did not achieve MCID for gait speed (e.g. “non-responders”).引用:POWER training in chronic stroke individuals: differences between responders and nonresponders. Aaron SE, Hunnicutt JL, Embry AE, Bowden MG, Gregory CM. Top Stroke Rehabil. 2017 Oct;24(7):496-502.
論文の結果の1つ目は、
Responderにおいて、歩行機能、麻痺側膝伸展筋力、非麻痺側膝伸展筋力の有意な改善を認めたが、
Non-responderでは、麻痺側膝伸展筋力と非麻痺側膝伸展筋力のみ有意に改善したとあります。
つまり、両群とも筋力増強練習を行うことで、膝伸展筋力は有意に増加することが示唆されます。
一方で、筋力増強することで歩行速度がMCIDを越えて改善する者(Responder)と、そうでない者(Non-responder)が存在することを示しています。
Baseline correlations showed that paretic knee power was associated with walking speed and endurance. Additionally, baseline paretic knee power, but not non-paretic knee power, was associated with changes in locomotor outcomes.引用:POWER training in chronic stroke individuals: differences between responders and nonresponders.Aaron SE, Hunnicutt JL, Embry AE, Bowden MG, Gregory CM. Top Stroke Rehabil. 2017 Oct;24(7):496-502.
論文の結果の2つ目は、
・ベースラインにおいて、麻痺側膝伸展筋群パワーが歩行速度や持久力と関連している
・ベースラインの非麻痺側膝伸展筋群パワーではなく、麻痺側膝伸展筋力パワーが歩行能力の変化と関連している
と報告されています。
つまり、麻痺側膝伸展筋力が歩行機能関連しており、ベースラインの麻痺側膝伸展筋力が強いほど歩行速度改善し、逆にベースラインの麻痺側膝伸展筋力が弱いほど歩行速度の改善が乏しかったことを示唆しています。
全く根拠はないですがフィジオライオンの仮説として、
自力で歩行可能な対象者において、歩行などの機能的なパフォーマンスの意味ある改善をもたらすためには、ベースラインで一定レベルの麻痺筋機能を上回る必要があるということかもしれません。
まとめ
フィジオライオン的まとめは、
- 下肢筋力増強によって歩行速度が改善する者とそうでない者がいる。
- 筋力増強練習で臨床的に意味ある歩行速度改善を得るためには麻痺側膝伸展筋力がある一定レベル必要である可能性があるが、現状はなんとも言えない。
今回紹介した論文はレスポンダーと非レスポンダーの違いを探索している研究であるため、
結果の解釈には十分注意が必要です。
正直言って、
歩行速度改善を目的に筋力増強練習を行った場合、
どういった特性を持った脳卒中患者に有効であるかはエビデンスがかなり不足しています。
おそらく、介助がないと歩行が難しいような対象者など、研究の切り口を変えれば結果も変わってくる気がします。
この分野の研究が更に行われることを期待しております。
また、そういった情報があれば、コメント欄にて教えて頂けたら助かります。
このテーマに興味を持っていただいた方は、
当ページの内容を鵜呑みにせずに1次情報にあたってください。
あくまでもフィジオライオンのフィルターを通しての解釈となっています。
コメント欄で皆さんの”考え”を共有していただけたら幸いです。
昨日の自分よりも1%成長がモットーのフィジオライオンがお送りしました。
今後ともよろしくお願いいたします。