現在、急性期病院で理学療法士として働いて9年目となります。
研究論文を読んでいると、感度、特異度、尤度比など統計用語が出てきます。
その用語を知らないと論文の理解が不十分になってしまいます。
そこで今回はフィジオライオン自身の備忘録も兼ねて診断特性指標についてまとめてみました。
統計素人がまとめましたので、その点はご容赦ください。
当ページのKey Questionは、
- 検査やカットオフ値で出てくる診断特性指標には何があるか?
- 各診断特性指標を理解する意味とは?
普段、そのあたりの指標を読み飛ばしている方や臨床で検査や転倒のカットオフ値などを使用する方には一読する価値があると思いますので、お付き合い頂けたら幸いです。
診断特性指標を理解するメリットとは?
新しいスケール開発の研究やカットオフ値を決める研究などでは、
感度、特異度、尤度比などの診断特性指標が出てきます。
例えば、
・○○ scaleの開発
・ある疾患患者の転倒リスクのカットオフ値
そういった論文は臨床を行う皆さんも興味がある分野だと思います。
ただ、指標がたくさん出てきますので、嫌になってしまいますよね。
ついつい、カットオフ値のみの確認に終始してしまいます。
しかし、完璧なスケールやカットオフ値はなく、どれも限界があります。
診断特性指標を理解することで、スケールやカットオフ値を利用する注意点が把握できます。
今回のページでは、
普段使用している検査やカットオフ値がどんな特性を持っているのかを理解できる
ようになればと思います。
各診断特性指標の説明
感度
感度は英語でSensitivityと言います。
感度が低い指標は、真陽性者を見逃してしまう恐れがあるので、臨床では使いにくくなってしまいます。
また、問題ある人を漏れなく拾い上げたいスクリーニング検査では感度が高いことが望まれます。
特異度
特異度は英語でSpecificityと言います。
特異度が高いと診断を確定する際に役立ちます。
つまり、スクリーニング検査で問題がありそうな人をピックアップし、
特異度が高い検査で絞り込むことが可能です。
感度と特異度の関係
感度と特異度が100%の検査があれば一番いいのですが、
そんなものは存在しないと言っていいでしょう。
例えば、この検査を行って陰性なら100%転倒しない!
という検査は無いですよね。
感度と特異度はトレードオフの関係にあって、
カットオフ値をいじって感度を上げようとすれば、特異度が下がります。
そのため、その関係を意識して各検査を使用する必要があります。
感度と特異度の関係はややこしいので具体例をあげます。
例えば、深部静脈血栓に対する血液検査として、Dダイマーがあります。
このDダイマーは深部静脈血栓に対して感度は高く、特異度は低い特性を持ちます。
感度が高いのでスクリーニング検査として役立ちます。
そのため、検査結果が陰性であれば深部静脈血栓の可能性を除外できます。
一方で、特異度が低いため、仮に検査結果が陽性であっても深部静脈血栓があるかどうかは分かりません・・・ないことが多いです。
つまり、Dダイマーは深部静脈血栓がないことのスクリーニングはできますが、深部静脈血栓の診断はできないことになります。
そのため、臨床ではDダイマーが陽性の場合、更に下肢エコー検査や造影CT検査を行います。
正確度
正確度は英語でAccuracyと言います。
直感的にわかり易い指標です。
適合度、精度
適合度、精度は英語でPrecisionと言います。
尤度比とモノグラム
尤度比(ゆうどひ)は英語でlikelihood ratioと言います。
そして、陽性尤度比と陰性尤度比があります。
尤度比は陽性あるいは陰性の検査結果を得た際に、どのくらいその問題がある確率が高くなったか(あるいは低くなったか)を示す係数です。
分かりにくいので、もう少し説明させてください。
感度と特異度は研究者にとって指標の特性を把握する上で重要な指標ですが、
患者さん本人にとっては感度80%、特異度79%などの数値を知っていてもあまり意味がありません。
例えば、患者さんにとって重要なのは
検査で陽性になった場合、どの程度病気であったり、問題があるかを知りたいはずです。
そこで役立つ指標が以下に説明する尤度比です。
言葉の説明だけでは理解しにくいので具体的な使用方法を以下に示します。
尤度比を臨床で使うためには次のモノグラムを利用すると非常に便利です。
上記の例では診断前の確率を50%として行いましたが、元々転倒リスクが高そうな患者を評価する場合は、診断前の確率が60~80%となり、同じ陽性でも検査後確率は高くなります。
ROC曲線
ROC曲線は日本語では受信者動作特性曲線と言いますが、ROC曲線の方がよく耳にしますね。
ROC曲線の書き方およびカットオフ値の算出方法を以下に示します。
以上で大まかな説明を終わります。
なお、各診断特性指標の参考値はおおよその目安となっていますので、ご注意ください。
まとめ
フィジオライオン的まとめは、
- 検査やカットオフ値で用いられる各診断特性指標について説明しました。
- 各診断特性指標を知ることで臨床で使用している検査やカットオフ値がどのような特性を持っているのか理解できます。
用語の説明でややこしかったと思いますが、いかがだったでしょうか?
普段臨床で使っている検査やカットオフ値がどのような特性を持っているかを理解できると
患者の機能障害の判定、目標設定、予後予測の際に精度が上がると思います。
このテーマに興味を持っていただいた方は、
当ページの内容を鵜呑みにせずに1次情報にあたってください。
あくまでもフィジオライオンのフィルターを通しての解釈となっています。
コメント欄で皆さんの”考え”を共有していただけたら幸いです。
昨日の自分よりも1%成長がモットーのフィジオライオンがお送りしました。
今後ともよろしくお願いいたします。