急性期病院で理学療法士として2013年から働いています。
理学療法士の皆さんは、脳卒中患者に対して歩行練習を行うと思います。
麻痺が良くなっていけば、自然と歩行速度は増えていくと思いますが、
ある一定のラインで止まってしまいますよね。
フィジオライオンも
「あれ?最近、歩く速さが頭打ちになっている・・・」
と悩んでいました。
患者様の生活範囲を広げたいのに、どのような歩行練習をおこなえばいいか悩んでいませんか?
実は歩行速度を改善するためには、押さえるべきポイントがあります。
そのポイントは、歩行速度の増加には前方推進力が深くかかわるという点です。
この記事を読むと
歩行速度を上げることを目的とした理学療法を行う提供する上で、
歩行速度を上げることを目的とした理学療法を行う提供する上で、
前方推進力の増加を達成するかのヒントになります。
なぜ歩行速度が大切なのか?
今さらですが、なぜ歩行速度が大切なのでしょうか?
皆さんは臨床現場で歩行速度を測定しますか?
フィジオライオンは頻繁に歩行速度を測定しています。
歩行速度測定が大切な理由を一言で説明すると、
歩行速度は第6のバイタルサイン(Walking Speed: the Sixth Vital Sign)
であり、予測能力が高く、測定することが非常に容易であることが挙げられます。
もっと詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
実際、臨床現場において脳卒中患者の歩行機能回復評価として歩行速度が幅広く使用されています。
歩行分析の父(←フィジオライオンが勝手に思っています)であるPerry(ペリー)氏をご存知でしょうか?
理学療法士であれば学生時代から下にある『観察による歩行分析』にはお世話になっていると思います。
リンク
歩行分析で使う用語や正常歩行を理解するのにお薦めの書籍となっています。
Perryらは歩行に関する研究を多数行っており、
地域での生活活動レベルを歩行速度で分類できることを報告しています。
Perryらによる機能的歩行分類は以下の通りです。
Perryらの機能的歩行分類に示されるように歩行速度は重要です。
しかしながら、
臨床では単純に歩行速度を増加させようと思っても壁にぶち当たります。
なぜなら、
いつかは自然回復による麻痺側の機能改善が頭打ちになってしまうからです。
臨床経験上、麻痺側の機能が頭打ちになると多くの患者は、
歩行速度を上げるために非麻痺側での代償メカニズムを用いてることが多いです。
そのため、歩行速度のみでは麻痺側下肢の機能回復の一部しか反映していないことが指摘されており、片麻痺患者の歩行機能を捉えるには不十分と言えます。
フィジオライオンの考えてとして、
理学療法士であれば、
非麻痺側の下肢での代償ではなく、歩行練習を通して麻痺側下肢の機能回復ならびに好循環を産む歩行の再学習を促すことを目指すべきだと思います。
バイオメカニクスの観点から歩行速度を増加させるために重要なタスクは
身体重心を前方へ推進させることと言えます。
つまり、
『前方推進力』が歩行速度改善には重要なキーワード
となります。
この前方推進力とは、前方方向への床反力ことですが、
簡単に言うと、床を蹴って前に進む力のことです。
車でいうアクセルと同じで、前方推進力が強いほどスピードが出ます。
人で例えるなら、
右脚と左脚それぞれが、エンジンを持っており、麻痺側の下肢はアクセルが効きにくい状態となっています。
つまり、
片麻痺患者の歩行速度を高めるためには、
麻痺側の足の前方への蹴りだす力して前に進む力を見ることが大切です。
前方推進力に影響を与えるメカニズムとは?
通常、 脳卒中片麻痺患者が歩くとき、 麻痺脚と非麻痺脚で床を押す力は等しくありません。
一般に、非麻痺脚に比べて麻痺脚で発生する推進力は小さいです。
脳卒中患者片麻痺患者における歩行の前方推進力に影響するメカニズムとして
フィジオライオン的に次の3点が重要であると考えています。
前方推進力に影響するメカニズム
❶立脚後期および前遊脚期の足関節底屈筋出力
❷Trailing limb angle(以下、TLA)
❸Push-off機能とPull-off機能のバランス
❷Trailing limb angle(以下、TLA)
❸Push-off機能とPull-off機能のバランス
❶は、
足関節底屈モーメントで表される指標である足関節底屈筋出力で、
単純に立脚後期および前遊脚期に床を蹴る力が強ければ前への推進力を得やすいとイメージしやすいと思います。
先行研究でも足関節底屈筋と歩行速度の関係について数多く報告されています。
次に❷は、
立脚後期で下肢の伸展角度を示した指標であるTLAで、
それ以外にもleg extensionやleg orientationなどと呼ばれることもあります(多少の違いはありますが、概ね同じ意味合いです)
下肢の伸展筋力生成は足部が体幹より後方にあるときに身体を加速させます。
そのため、麻痺側推進力の低下は、麻痺側脚によく見られる立脚後期の下肢伸展(すなわち、垂直に対するleg orientation)の減少に起因します。
元々は
ステップ長の非対称性と快適歩行速度に負の相関があり、
ステップ長に関連する間接的な運動力学が前後方向の床反力に影響を及ぼす可能性ある点で注目された指標でした。
TLAは足関節底屈モーメントと同様、多くの先行研究で歩行速度との相関関係が報告されています。
❸は、
フィジオライオンのオリジナルの考えで、下肢の振り出し戦略のバランスのことです。
皆さんは、Push-off機能とPull-off機能を知っていますか?
両方ともSwing Initiationに関わる機能です。
Swing Initiationとは、遊脚期の初めの部分のことを指します。
Push-off機能は主に足関節底屈筋によって行われ、
Pull-off機能は主に股関節屈曲筋によって行われます。
Swing Initiationについてもっと詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
Pull-off機能の割合が高まり、つまり過度の屈筋活動によって下肢への荷重解放が早まることで適切な足関節底屈筋の出力を弱める可能性があります。
麻痺が重度な脳卒中患者は、
歩行速度をあげるために麻痺側の立脚後期から遊脚期にかけて下肢の屈曲共同パターンを用いて振り出し(Pull-off)を行い、学習することが散見されます。
一部の脳卒中患者にとっては、その代償手段が有効である可能性もありますが、
股関節屈曲でのPull-off機能が強いと前方推進力は低下することが報告されています。
つまり、足関節底屈筋による床を蹴る機能(Push-off機能)と脚を持ち上げる機能(Pull-off機能)のバランスが重要となると考えます。
麻痺側下肢の前方推進力の重要な予測因子
歩行速度増加には、前方推進力増加が鍵であることはお伝えしました。
しかしながら、臨床現場では前方推進力を測定することは手間と労力がかかってしまいます。
そこで、麻痺側下肢の前方推進力の重要な予測因子を研究した論文を紹介します。
脳卒中片麻痺患者と年齢をマッチさせた対照被験者が対象となった研究です。
トレッドミル上で同程度の速度で歩行し、3次元動作解析で前後方向の床反力を測定して、
その前方推進力を予測するためのパラメーターを求めた研究になります。
Increasing paretic leg extension and plantar flexor output and decreasing paretic hip flexor output from mid to late stance each have the potential to increase paretic propulsion in subjects with hemiparesis.引用:Leg extension is an important predictor of paretic leg propulsion in hemiparetic walking.Peterson CL, Cheng J, Kautz SA, Neptune RR. Gait Posture (IF: 2.84; Q3). 2010 Oct;32(4):451-6.
論文の結論は、
立脚中期から後期にかけて,
脳卒中片麻痺患者は、麻痺側TLAと足関節底屈筋の出力を増加させ,麻痺側股関節屈筋の出力を減少させることで麻痺側推進力を増加させる可能性があるとうものでした。
まとめ
フィジオライオン的まとめは、
- 前方推進力を増加するためには、立脚中期から後期にかけて麻痺側TLAと足関節底屈筋の出力を増加させ,麻痺側股関節屈筋の出力を減少させることで可能となる可能性がある。
脳卒中患者の歩行速度を増加させるために前方推進力増加が重要であり、
それを予測するためのパラメーターである『麻痺側TLA』と『足関節底屈筋』を紹介しました。
これらのパラメーターをどの様に運動療法に応用していくかが大切だと思います。
また、地域での生活活動レベルを考えた場合、
今回は冒頭でPerryらの機能的歩行分類を取り上げましたが、
6分間歩行距離の方が精度よく予測できるとの報告もあります。
興味がある方は以下を参照してください。
フィジオライオンの感想
もしかしたら、
歩行速度増加を非麻痺側下肢での代償メカニズムではなく、
理学療法によって麻痺側下肢の機能回復を促すことで達成できれば、
より地域生活で応用の効く歩行能力を獲得できるかもしれませんね。
個人的に想像するだけでわくわくします。
ある特性を持つ脳卒中片麻痺患者に対して、
麻痺側下肢の前方推進力を改善するための運動療法が開発できるように日々の臨床を実りあるものにしていきたいと思います。
このテーマに興味を持っていただいた方は、
当ページの内容を鵜呑みにせずに1次情報にあたってください。
あくまでもフィジオライオンのフィルターを通しての解釈となっています。
コメント欄で皆さんの”考え”を共有していただけたら幸いです。
昨日の自分よりも1%成長がモットーのフィジオライオンがお送りしました。
今後ともよろしくお願いいたします。