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長期的に好循環を生む地域生活で通用する歩行能力獲得に必要な視点とは?

2022/11/27

バイオメカニクス 運動療法 脳卒中 歩行 論文紹介

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皆さんこんにちはフィジオライオンです。

現在、急性期病院で理学療法士として働いて10年目(2022年度時点)となります。


脳卒中患者がどういった歩行能力を獲得して退院すれば
在宅でも機能低下しないで過ごせて行けるかと悩んでいませんか?

よく回復期退院時が機能のピークで、その後は低下するなんて噂を聞いたことがあります。

単純に歩行速度を上げることが地域活動で好循環を産む歩行能力となるのでしょうか?

この記事ではフィジオライオンが考える長期的に高循環を産む歩行能力の獲得に必要な視点を説明したいと思います。

この記事のKey Questionは、

  1. 長期的に好循環を生む歩行能力獲得に必要な視点とは?

この記事を読むと脳卒中患者の歩行練習プログラムを立てる一助になると思います。
お付き合い頂けたら幸いです。

その歩行速度で地域での生活は大丈夫?

歩行速度は脳卒中後の歩行能力の主要な指標です。
研究分野では、歩行速度に対する治療効果の判定基準として
歩行速度の増加率が最も広く使用されていいます。

フィジオライオンも定期的に歩行速度を測定して、介入の効果判定を行っています。

多くの理学療法士が歩行速度の変化量を効果判定として用いているのではないでしょうか?


しかし、
地域で問題なく活動する上での歩行機能には、
歩行速度の変化量ではなく、介入終了時の実際の速度(最終速度)の方がより重要である
可能性が指摘されています。

少し古いですが、2008年のレビュー論文では、以下のように述べられています。
Similar outcomes for final walking speed were found for the different prevailing treatment methods. Treatment gains were likewise comparable and generally insufficient for upgrading patients' functional community walking capacity.
引用:Rehabilitation of gait speed after stroke: a critical review of intervention approaches. Dickstein R. Neurorehabil Neural Repair. 2008 Nov-Dec;22(6):649-60. 
論文の結果は、
脳卒中後の歩行リハビリテーションには様々な治療法が存在するが、介入後の最終的な歩行速度はほぼ同等であり、
総じて機能的な地域歩行能力を向上させるには不十分であった。
というものです。

つまり、
介入によって歩行速度の増加はするものの、地域活動を行う上では不十分であった
とのことです。

少し考えてみれば当たり前ですね。
当然、歩行速度は少しでも改善した方がプラスではありますが、
地域で問題なく活動できるかは変化量ではなく、
最終的な歩行速度が基準を満たしているかがより重要です。

Perryらの機能的歩行分類によれば、
制限なく地域活動が可能な歩行速度は0.8m/s以上としています。

この歩行速度以上であれば大丈夫!!とは言いませんが、
地域で問題なく生活できる歩行速度獲得を目標とするのであれば、
目安にすべき値であると考えます。

回復期のジレンマ

フィジオライオンは、
脳卒中患者の歩行能力を捉える視点として、
パフォーマンス歩容を別けることが重要であると考えています。

ちなみにここでの言葉の定義として、
『パフォーマンス』は、歩行速度、運動耐容能、自立度などの指標であり、

『歩容』は、歩行パターンなどの運動学・運動力学的指標を指します。


『歩行能力を向上させる治療戦略を立てる上で、両者は明確に区別する必要があるのではないか?』
というのがフィジオライオンの意見です。

一方で、回復期ではFIM利得が重要となります。
そのため、ADLを向上されることが『正解』と思考停止してないでしょうか?

もしも、歩容(運動学・運動力学的指標)が置き去りとなり、
単純に歩行練習量を増やしたプログラムが横行しているとしたら危険だと思います。

ある程度の訓練量は絶対に必要です。
でも質はどうでしょうか?

パフォーマンスはある程度の訓練量を行えば改善すると思いますが、
歩容はどうでしょうか?

歩容を改善される視点が欠けた状態では、
パフォーマンス(歩行速度)の改善はすぐに頭打ちになってしまうというのが、
フィジオライオンの考えです。

その歩行速度改善は、『神経運動学的回復』なのか、『代償戦略による適応』なのか?

ここでは、なぜフィジオライオンが地域で問題なく活動できる歩行能力を身に付けるために『歩容』に着目して欲しいかを述べたいと思います。


先にも述べたように、
歩行リハビリテーションの課題として、
機能的な地域歩行レベルまで改善が引き上げることができていない点があげられます。

臨床で脳卒中リハビリテーションを行っている身からすると、
課題の重要性は非常に理解できますが、
一方で解決することが非常に難しいとも感じます。

Perryらの機能的歩行分類にもあるように
歩行速度は地域での活動レベルを推測する上で大切な指標です。

しかしながら、
歩行リハビリテーションによって歩行速度が改善した場合、
その数値だけでは、『神経運動学的回復』なのか、
それとも『代償戦略による適応』なのか判断することが非常に困難です。

歩行速度は、麻痺肢の随意性改善などの『神経運動学的回復』によっても増加しますし、
一方で、分回し歩行やHip hiking歩行などの代償戦略による適応』によっても増加します。

両者ともに歩行速度は増加しますが、
後者のデメリットとしてはエネルギーコストが高く、長距離歩行に不利である点が挙げられます

いくら歩行速度が早くても非効率な歩行では活動量は低下していくことが予想できます。

そのため、歩行速度が上がったから介入が上手くいったというように話は単純ではないかもしれません。

やはり地域生活で通用する歩行能力を獲得するためには、
神経運動学的回復を目指したアプローチが重要な視点だと考えます。

先ほど紹介した論文の結語として、
・Considering the high prevalence of individuals with hemiparesis who live in the community, it may be beneficial to redirect research efforts toward the enhancement of long-term maintenance of gait performance in the community, which represents a more urgent need than the search for treatment modes for enhancing short-term gait performance and speed. 
引用:Rehabilitation of gait speed after stroke: a critical review of intervention approaches. Dickstein R. Neurorehabil Neural Repair. 2008 Nov-Dec;22(6):649-60.
とあり、
地域社会で生活する片麻痺患者の割合が高いことを考慮すると、
短期的な歩行性能や速度を向上させる治療方法の探索よりも、地域社会における歩行能力の長期的維持の強化に研究努力を向けることが有益であると述べられています。

上記を踏まえると、
長期的に地域で快適に活動できる機能的な歩行能力を獲得するためには、
介入して得た歩行速度改善が『神経運動学的回復』によるものなのか、
それとも『代償戦略の適応』によるものなのかを区別することが重要であると考えます

経験的に、
歩行速度を上げるために代償戦略を強化する介入では、
短期的に歩行速度の改善は得られる可能性は高いですが、
長期的視点にたったときに歩行速度の伸びには限界を感じます。

当然、治療プログラムを立案する上で、
『神経運動学的回復』『代償戦略の適応』はバランスが重要です。

麻痺が重度な患者に対して、代償戦略を全くとらせないのはナンセンスだと思います。
神経運動学的回復を待っていては廃用が進んでしまうし、場合によっては回復してこない可能性もあります。
多少代償動作があったとしても歩行が可能となることで、
荷重刺激が入力され、そのことで回復につながることとは往々にして経験します。

ただ、セラピストが歩行リハビリテーションを行う上で、
「ここまでの代償動作は許容する」
「この代償動作が学習されれると長期的には修正が難しくなるから、代償は抑制する」
「この機能が回復してきたら、ここの歩容を変えていく」
など、

神経運動学的回復予測と歩行再建の設計図を頭に入れて理学療法を実践していく必要がある
と思います。

単純に歩行速度のみを改善させる視点のみで介入するよりも、
運動学・運動力学的に効率的な歩容を学習させる視点を含めて介入した方が、
地域でも好循環を産む歩行能力獲得に近付けるのではないでしょうか?

まとめ

フィジオライオン的まとめは、
  1. 歩行速度改善には『神経運動学的回復』と『代償戦略の適応』によるものがあるが、自分の歩行リハビリテーションがどちらに対してアプローチしているかを明確に区別して介入する必要がある。

今回は、歩行能力『パフォーマンス』(歩行速度、耐久性、自立度)と『歩容』(運動学・運動力学)に区別して紹介し、

さらに歩行速度改善『神経運動学的回復』『代償戦略の適応』に区別して紹介しました。

介入よって歩行速度が改善することは嬉しいですが、
より長期的に好循環を産む歩行能力獲得のために、
上記の視点で歩行リハビリテーションを行うのはいかがでしょうか?

このテーマに興味を持っていただいた方は、
当ページの内容を鵜呑みにせずに1次情報にあたってください。
あくまでもフィジオライオンのフィルターを通しての解釈となっています。
コメント欄で皆さんの”考え”を共有していただけたら幸いです。


昨日の自分よりも1%成長がモットーのフィジオライオンがお送りしました。
今後ともよろしくお願いいたします。

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このブログを書いている人

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急性期病院で理学療法士として働います。昨日の自分よりも1%成長がモットーに臨床と研究に奮闘しています。当ブログは、各患者の最大機能を発揮させる運動療法を追求し、臨床経験や臨床研究を通して誰もが再現性ある手段を獲得できるための情報発信を目的としています。

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