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【論文要約マガジン 第4回】脳卒中急性期の歩行予後は『座るバランス』と『麻痺側の筋力』で予測できるって本当?

2025/01/19

歩行 予後予測 論文要約マガジン

t f B! P L



  • 急性期病院で医師や看護師からこの人歩けるようになるかって聞かれてもわからない……
  • 急性期での歩行の予後予測って正確にできるの?
  • 発症して間もない患者さんの評価って、いろいろ制限があって難しい……


私は2013年から急性期病院で理学療法士として働いています
脳卒中患者に対する理学療法も数多く経験しており、臨床ではエビデンスを意識して取り組んでいます。

急性期で脳卒中患者を担当すると、離床を行っている時やカンファカンファレンス時に医師や看護師から
「自宅退院できる?それとも転院が必要?」
「この人は、歩けるようになるのかな?」
と聞かれて、回答に困ったことはあると思います。

そこでこの記事では、『急性期の脳卒中患者における3ヵ月後の歩行自立』を予測するモデルの検証を行った研究を解説します。

この記事を読めば、以下のようなことが可能になります。

  • 発症3ヵ月後の歩行自立の予測ができる
  • 予測モデルの適用条件がわかる

普段から臨床研究を行っているフィジオライオンが、研究論文を臨床に活用できるようにまとめました。
急性期病院で脳卒中患者を担当して歩行の予後予測をしたい人は最後まで読んでください。

論文要約

タイトル:External Validation of the Early Prediction of Functional Outcome After Stroke Prediction Model for Independent Gait at 3 Months After Stroke
著者:Veerbeek JM, Pohl J, Held JPO, Luft AR
雑誌名:Front Neurol. 2022;13:797791
デザイン:前向きコホート研究
Impact Factor:4.0
論文リンクはこちら

タイトルは「外部妥当性:脳卒中後3か月における歩行自立の早期予測モデルの機能的結果の予測モデルの検証になります。
2011年に開発されたEPOS研究(Early Prediction of Functional Outcome after Stroke: EPOS)の続編になります。

2011年に、初発の虚血性脳卒中で、発症後72時間以内に自立歩行が困難であった患者を対象に、6ヶ月後に自立歩行を獲得できるかを判定するためにEPOS予測モデルが開発されました。 EPOS予測モデルは、脳卒中後2~9日目に、患者が脳卒中後6ヵ月後に自立歩行を取り戻せるかどうかを予測するツールです。
EPOS予測モデルの開発研究の詳細が気になる方は、こちらをお読みください。

目的:何を検証したか?

本研究では、元の6か月後の代わりに発症後3か月をエンドポイントとして、EPOS予測モデルの時間的および地理的な外部妥当性の検証を行うことを目的とした。

外部妥当性の検証について
ある研究で導き出された予測モデルAは、その研究で対象になった患者のみに適合している可能性があります(過剰適合、オーバーフィッティング)。外部妥当性を検証するためには、異なる対象者に対して予測モデルAを用い、より広範な状況や対象に対しても適用できるかを確認する必要があります。
代替テキスト

臨床で予測モデルを使う場合は外部妥当性が検証されているか確認しよう!

新規性・問題提起:先行研究と比べてどこがすごい?

急性期脳卒中患者における歩行の予後予測研究では、外部妥当性まで検証した予測モデルは少ない。今回の研究では、異なる地域、異なる評価タイミングで検証が行われている。
  • 元のEPOS研究ではオランダの9つの脳卒中ケアユニットから募集されているが、今回はスイスの脳卒中ケアユニットからの募集で地域が異なる。
  • 2つのコホートに別けて、コホートⅠでは発症1日目と8日目、コホートⅡでは発症3日目と9日目と異なる発症時期での評価を行っている。

方法

  • スイスの病院の脳卒中ユニットに入院した初発脳卒中(虚血性および出血性)の患者を対象とした2つの前向き縦断コホート研究であった。
  • 対象の条件は、脳卒中前の生活が自立、指示理解可能、初回評価時に歩行が非自立であった患者であった。
  • コホートIでは発症後1日目と8日目、コホートIIでは発症後3日目と9日目に座位バランス (Trunk Control Test 座位:TCT‐座位)と麻痺側の脚の筋力 (Motricity Index 下肢:MI-下肢)を評価した。
  • EPOS予測モデルによると、
    Trunk Control Test (TCT)-座位は、25点(座位バランスあり)VS 25点未満(座位バランスなし)に二分された。
    Motricity Index (MI)-下肢は、25点以上(筋力あり)VS 25点未満(筋力なし)に二分された。
【メモ】Trunk Control Test (TCT)による体幹機能の評価
右への寝返り、左への寝返り、
座位バランス、起き上がりの4項目で評価する。採点基準は以下の通りで、得点範囲は0~100点となる。

0 点:介助なしでは行うことができない
12 点:遂行できるが正常ではない(ベッド柵や寝返りをするために用意した紐などを掴まないとできない)
25 点:動作を正常に遂行できる

※EPOS予測モデルでは座位バランスのみを採用し、30秒の座位保持で評価している
代替テキスト

EPOS予測モデルでは、座位保持が30秒できるかどうかで判定しているね

【メモ】Motricity Index 下肢 (MI-下肢)による下肢筋力の評価
下肢テストは3項目あり、股関節屈曲・膝関節伸展・足関節背屈の各筋力を評価する。得点範囲は1~100点で、3項目の合計し、1点加点する。

0点:動きなし MMT0
9点:筋収縮の動きを触診できるが、動きはみられない MMT1
14点:動きはみられるが全可動域の動きではなく(50%未満)、重力に抗することができない MMT2
19点:重力に抗して完全可動域を動かせるが、わずかな抵抗に抗することができない MMT3
25点:弱い抵抗になら抗することができる MMT4
33点:強い抵抗にも抗することができる MMT5
MMTを基にして作成されているため、理解しやすいようにMMTでも示している
代替テキスト

MI-下肢が25点以上の最低ラインは、3つのテスト項目すべてでMMT1、または1つの項目でMMT4の場合などが想定できるね

  • 発症後3か月後の自立歩行はFunctional Ambulation Category (FAC)が4以上と定義し、評価された。
【メモ】Functional Ambulation Category (FAC)による歩行機能の評価
歩行機能は以下の6つのカテゴリ
0:歩行不能
 歩行困難、または平行棒内のみ歩行可能だが、平行棒外を安全に歩くために 2 人以上の介助が必要
1:介助歩行レベル 2
 平地歩行において転倒予防のために 1 人の介助が必要。介助は持続的で、バランス保持、動作の手助けに加えて体重を支える必要がある。
2:介助歩行レベル 1
 平地歩行において転倒予防のために 1 人の介助が必要。介助はバランス保持、動作の手助けのための持続的、または断続的で触れる程度の介助。
3:監視歩行
 介助なしに平地歩行が可能だが、判断能力の低下や心機能の問題、動作遂行のために口頭指示が必要といった理由から、安全のために 1 人の近位監視が必要。
4:平地歩行自立
 平地では自立して歩行が可能だが、階段や斜面、不整地では口頭指示や介助が必要
5:歩行自立
 平地や不整地、階段、斜面を問わず、自立して歩行が可能
代替テキスト

FAC 3が監視レベル、FAC ≥ 4が自立レベルとなっているね

  • モデルの識別能(ROC曲線下面積; AUC)、分類、およびキャリブレーションの性能が評価された。
    ROC曲線について詳しく知りたい方≫コチラから!

結果

  •  コホートI (N = 39, 中央年齢: 74歳、女性33%、NIHSS中央値: 9) では、AUC (95%信頼区間 (CI)] は1日目0.675 (0.510, 0.841)であり、8日目は0.921 (0.811, 1.000) であった。
  • コホートII (N = 78, 中央年齢: 69歳、女性37%、NIHSS中央値: 8) では、3日目は0.801 (0.684, 0.918)であり、9日目は0.846 (0.741, 0.951) であった。

フィジオライオンのつぶやき


以下に臨床で活用可能な結果をまとめてみました。
脳卒中後3か月の自立歩行のためのEPOS予測モデルの外部妥当性は、初発脳卒中で発症前に重度の障害がない軽度から中等度の患者において3日目以降に受け入れられる性能を示した。

POINT
  • EPOS予測モデル(MI‐下肢 ≥25、TCT-座位≥25)は、簡便で臨床現場で使いやすいツールである。
  • 適用は、初発の虚血性および出血性脳卒中入院前ADL自立指示理解可能重症度が軽度~中等度と制限があるため注意が必要である。
  • 再発性脳卒中やより重篤な神経学的併存症のある患者の一般化可能性を向上させるためにさらなる研究が必要である


このテーマに興味を持っていただいた方は、
当ページの内容を鵜呑みにせずに1次情報にあたってください。
あくまでもフィジオライオンのフィルターを通しての解釈となっています。

昨日の自分よりも1%成長がモットーのフィジオライオンがお送りしました。
今後ともよろしくお願いいたします。





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急性期病院で理学療法士として働います。昨日の自分よりも1%成長がモットーに臨床と研究に奮闘しています。当ブログは、各患者の最大機能を発揮させる運動療法を追求し、臨床経験や臨床研究を通して誰もが再現性ある手段を獲得できるための情報発信を目的としています。

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